ワクチンで防げる病気
上記の頭文字をとって VPD。医療関係者の間ではよく知られている VPD とは「ワクチンで防げる病気」のことを言います。一般的にはなかなか広まっていない言葉ではありますが、お子さんを大切に想うお母さん方にはぜひ憶えておいてもらいたい考え方になります。
病気はどれだけ気をつけていたとしてもなってしまうものです。ですが、事前に防ぐことができるものは絶対に発症させないようにしようという考えからこの言葉は生まれました。お母さん方にも、ぜひ予防接種のワクチンのことを知っていただき、接種漏れのないように意識をしていただきたいと思います。
予防接種では後進国の日本
日本はワクチンの認可は他の先進国よりも圧倒的に遅れたと言われています。例えばヒブワクチンはアメリカよりも 20 年遅れてようやく日本で認可されました。アメリカではヒブワクチンによって髄膜炎という病気の発症率はほぼ 0%に近い数字にまでなっています。日本でもアメリカにかなり遅れを取りましたが、ヒブワクチンを定期化したことにより、近年になってようやくヒブ髄膜炎は激減してきました。
また、2013 年までははしか(麻しん)の輸出国だった日本。諸外国からはしか撲滅の足を引っ張っているという批判を受けていましたが、ワクチンの 2 回接種を徹底するようになり、お子さまの発症は激減しました。現在、ワクチン接種を 1 回しか打っていないお母さん世代の方に感染のリスクが高いと言われています。
このように他の先進国に遅れをとって、予防接種に関する環境が日本でもようやく整備されつつあります。しかし、アメリカでは保育所や小学校、大学に入る際には予防接種の接種証明書が必要という決まりが定められるくらい感染症に対してシビアに考えられており、日本と諸外国ではまだまだ意識の差はあると思っています。日本でも予防接種が個人だけでなく集団や社会を守るためのものでもあるという意識を少しでもお母さん方にも持っていただけたら幸いです。
生ワクチンと不活化ワクチンとは?
定期と任意、生ワクチンと不活化ワクチン。色々な用語がでてきてお母さん方も混乱されている方も多いかと思います。スケジュールに関して等は院内(お電話でも対応しております)で一緒に作っていくので憶えていただく必要はないのですが、これから接種していくワクチンがどんなものなのか。少しでも知っていただけたらと思います。
生ワクチンと不活化ワクチンは何が違う?
ワクチンは、感染の原因となるウイルスや細菌をもとに作られています。成分の違いから、「生ワクチン」「不活化ワクチン」に分けられます。
生ワクチン
病原体となるウイルスや細菌の毒性を弱めて病原性をなくしたものを原材料として作られます。
毒性を弱められたウイルスや細菌が体内で増殖して免疫を高めていくので、接種の回数は少なくて済みます。十分な免疫ができるまでに
約 1 ヵ月が必要です。
不活化ワクチン
ワクチンの種類
ヒブワクチン
接種開始時期:生後 2 ヶ月から開始
インフルエンザ菌 b 型(Hib、ヒブ)は乳幼児の細菌性髄膜炎の原因となり、死亡したり重篤な後遺症を残す恐れがある病気です。ヒブワクチンはこれらの病気を予防するためのワクチンで、早期に必要接種回数を完了させるために、ロタウイルス、小児用肺炎球菌、四種混合、B型肝炎と同時接種で受けていただくことを推奨しています。
小児用肺炎球菌ワクチン
接種開始時期:生後 2 ヶ月から開始
肺炎球菌は、肺炎、気管支炎、中耳炎、敗血症、細菌性髄膜炎を起こします。特に敗血症や細菌性髄膜炎は病状の進行が速いことと重症度も高いため、世界的に多くの乳児の死亡例がでています。また近年では、肺炎球菌は耐性菌が増加し、抗生物質が効きにくくなってきているといわれています。このような背景からも、ワクチンによる予防が大切です。早期に必要接種回数を完了させるために、ロタウイルス、ヒブ、四種混合、B型肝炎と同時接種で受けていただくことを推奨しています。
四種混合(DPT・IPV)ワクチン
接種開始時期:生後 2ヶ月から開始
ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオの混合ワクチンです。ジフテリアはジフテリア菌による感染症で、菌の毒素により重篤な状態を引き起こします。百日咳は咳がひどくなる病気で、赤ちゃんがかかると肺炎や脳症をおこす事があり危険です。破傷風はケガなどをきっかけにおこる病気で死亡率も高い病気であり、ポリオウイルスは人に感染し、下肢のマヒをおこしたり時に死亡する恐れのある病気です。四種混合ワクチンはこれらの病気を予防するためのワクチンです。
BCG ワクチン
接種開始時期:標準接種時期は生後 5 ヶ月~ 8 ヶ月
結核の重症化を防ぐための予防接種。乳幼児が結核にかかると、結核性髄膜炎や粟粒結核など重症化することがあり、そのリスクを減らすためのワクチンです。
B 型肝炎ワクチン
接種開始時期:標準接種時期は生後 2 ヶ月~ 12 ヶ月(1 歳の誕生日を迎える前まで)
※1 歳を迎えてからも接種は可能ですが、任意接種(有料)となります。
これまでは B 型肝炎ウイルス保菌者の母体から生まれた赤ちゃんに感染(垂直感染)することが多いとされていましたが、最近は父親や他人からの感染(水平感染)も報告されています。B 型肝炎ウイルスは感染すると慢性肝炎、肝硬変、肝ガンへと進むリスクがあります。その予防のためのワクチンです(保菌者のお母様からの出産の場合は保険扱いで接種されます)
0 歳のうちに 3 回接種が必要で、3 回目は 2 回目から 4-5 か月の間隔をあけて受けます。1 歳以上でも未接種の場合は任意での接種となってしまいますが、できるだけ早く受けることをおすすめします。
麻しん風しんワクチン(MR ワクチン)
接種開始時期:MR1 期:1 歳時 MR2 期:年長時
麻しん(はしか)は高熱が長く続き、発疹が出現する病気で肺炎や脳炎をおこすことがあります。風しんは、妊婦の方がかかると胎児に障害を起こす確率がかなり高くなります。また、どちらの病気もかかると伝染力の強い病気ですので、このワクチンで予防することがとても大切です。
1 歳の誕生日が来たら受けることができます。
水痘(みずぼうそう)ワクチン
接種開始時期:1 歳~ 3 歳未満の間に 2 回接種
水痘は伝染力が強く、学校・園・家庭内で広がりやすい疾患です。比較的、元気に経過することも多いですが、一定期間、園や学校を休むことになります。また時に、肺炎や小脳性運動失調症など重篤な合併症を起こすことがあります。
1 歳の誕生日が来たら受けることができます。
日本脳炎ワクチン
接種開始時期:標準的には 3 歳から接種しますが、生後 6 か月から受けられます
日本脳炎という病気は頻度は少ないですが、実際にかかると非常に重篤で、重い後遺症を残したり、死亡するケースもあり、その予防のための重要なワクチンです。またこの病気は蚊がウイルスを媒介しておこるので、夏は蚊に刺されないような対策も併せて行っていただく必要はあります。
3歳で1期初回の2回、4歳で1期追加、9 歳で2期が必要です。
子宮頸がん(HPV)ワクチン
接種開始時期:小学校 6 年生から高校 1 年生相当の年齢
(平成9年度生まれ~平成18年度生まれの女性で接種を逃した方も接種対象となります)
令和4年4月から厚労省が接種勧奨の差し控えを解除したワクチンです。
ヒトパピローマウイルス(HPV)は性的接触のある女性であれば50%以上が生涯で一度は感染するとされているウイルスで、
子宮頸がんをはじめ肛門がん膣がんなどのがんや尖圭コンジローマ等の多くの病気の発生に関わっています。
特に近年若い女性の子宮頸がん罹患(りかん)が増えていることが問題視されており、初期に症状がほとんどないため自覚症状が現れることなく進行していくという特徴があります。そのため子宮頸がんを予防するワクチン接種と定期的な子宮頸がん検診を受けることで対策をしていくことが必要となります。
日本で接種勧奨の差し控えが行われている間もカナダ・イギリス・オーストラリアなどの子宮頸がんワクチン接種率は8割程度であり、それらの国で子宮頸がんの原因の50~70%(9価ワクチンでは80~90%)を防ぐことができるというデータが得られています。
(年齢により接種回数などが異なってくるため一度ご相談ください)
ロタウイルスワクチン
接種開始時期:1価 生後 6 週から 24 週未満、5価 生後 6 週から 32 週未満
ロタウイルス胃腸炎は、冬から春にかけて乳幼児が嘔吐や下痢をおこします。そのため脱水症状をおこし点滴をしたり、入院することもしばしばあります。また、時に脳症をおこし、重い後遺症や致死例の報告もあります。ロタウイルス胃腸炎をおこす前に、ロタウイルスワクチン(経口ワクチン)を実施して、予防することをおすすめします。
ロタウイルスワクチンには、1価ワクチン(2 回接種)と5価ワクチン(3 回接種)の 2 種類があり、早期に必要接種回数を完了させるために、生後 2 ヶ月でヒブ、小児用肺炎球菌、B型肝炎と同時接種で受けていただくことを推奨しています。
おたふくかぜワクチン
接種開始時期:1 回目 1 歳、2 回目 年長時
おたふくかぜの病気になると無菌性髄膜炎、難聴、膵炎、精巣炎、卵巣炎などの合併症を引きおこすことがあります。特に難聴は、生涯聴力障害を背負うこともあり、そのためにも予防接種が大切です。
A 型肝炎ワクチン
接種開始時期:一般的には生後 1 歳から可能
A 型肝炎は日本では減ってきてはいますが、時々汚染された生ガキを食べて発症することがあります。海外の流行地域に行く場合は接種をおすすめします。1 回目の 2‐4 週間後に 2 回目、その半年後に 3 回目を接種する流れとなります。
予防接種のお問い合わせ・ご予約
お問い合わせ・ご予約窓口
受付時間
8:00 ~ 19:00
乳幼児期にはたくさんのワクチン接種をします。親ごさんの希望もお聞きしながら、お子さまの年齢に沿って予防接種のスケジュールを組んでいきたいと思っております。疑問、不安な事などありましたら、お気軽にお尋ねください。